農福連携の取組から考える、地域のリハビリ場としての未来の農園/笠間令子さん 株式会社笠間農園取締役

笠間令子さん 株式会社笠間農園取締役

石川県河北郡にある笠間農園には、就労継続支援B型事業所から毎日数名が働きに来ています。5年前から農福連携を始めた笠間農園。この取組の中心に立つのは作業療法士としての経験もある笠間令子さん。最初周囲は取組に対して不安を抱いていましたが、人手のかかるえだまめの選別・袋詰めを事業所にお願いすることで規模拡大を続け、2021年度のえだまめの出荷量は2017年度の5倍以上に増加しました。現在は大事な戦力として作業の一部を担うようになっています。この5年間で見えて来た農福連携をする上で大事なことや、この取組の先に笠間さんが見据えていることなどを伺いました。

ご縁から生まれた農福連携

農福連携のスタートは、5年前に就労継続支援B型事業所から声がかかったことがきっかけ。当時、農業をするために設立したものの働き先の農園が見つからず困っていた事業所から、「元作業療法士である笠間令子さんがいる笠間農園なら」とお声がけがあり、ご縁が生まれました。

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生粋の農業人であり、障がい者との関わりがなかった代表取締役である笠間勝弘さんらは「今すでに従業員と順調に進めている中に新しい取組をするには勇気がいる。どのような農作業が出来るのか?どのように接すれば良いのか?わからない。」という不安もあったそう。それでも元々作業療法士という仕事が大好きだった令子さんのやりたい気持ちを尊重して取組が始まりました。「既存の作業に影響を与えず、障がい者の方々も活躍できて、みんなにも認めてもらえるように」と必死で作業を伝えたそう。そのかいあって、半年後には「とても助かっているね」と勝弘さんからも認められ、「彼らが活躍できる農園にしていこう」となりました。

事業所の協力あって、えだまめ収穫量が5年で5倍以上に!

現在は2つの事業所が、通年1日おきに午前中2時間こまつなの収穫作業を行っています。さらにこのこまつなを使って1つの事業所では、こまつなマフィンを製造するようになりました。そうすることで収穫・加工・販売など仕事がふくらみ、農園に来ていない仲間たちの活躍の場も生まれました。

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そして夏場の2ヶ月は6つの事業所にお願いして、えだまめの選別・袋詰めを行っています。選別はすごく手間がかかる作業。それをまずは事業所のスタッフさんに覚えてもらい、そこから事業所の利用者に教えてもらう方法をとりました。農家側はこの時期にしか生育できないえだまめを大量に作付けすることができ、事業所側は多くの人手を手配し選別・袋詰めを可能にする分業体制ができたことで年々収穫量を上げています。実際に2017年度の2.5tから2021年度は14tへ5倍以上増加しました。この拡大を支えているのは、事業所側との信頼関係。「今日はあと少し量を増やして対応してほしい」というお願いにも事業所側が寄り添ってくれており、「本当に感謝しています。事業所側の協力がなければ成り立たないです」と令子さん。

大事なのは作業を細分化してからの分担

石川県内での農福連携の導入も増加しています。石川県農福連携促進アドバイザーでもある令子さんは、農福連携を実施するにあたって「トイレは必要だけどそれ以外の環境面はどうしようもない。それより農作業の分担をどうするかがすごく大事」と話します。例えば「はくさいの収穫を依頼したい」という農家がいたとして、収穫全部を任せるのではなく、作業を細分化して、「鎌ではくさいを切るのは農家がやりましょう。そして切ったはくさいはその場に置いておけば、事業所側はそれを運ぶのは得意です」というように作業を分担していきます。

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現在笠間農園では、はさみを使用したこまつなの収穫を事業所側が行っており、それを計測、袋詰め、段ボール詰めは農家側で行うという分担をしています。そして農家側は1人で計測から段ボール詰めまで行っています。今後はこの作業を事業所側でも出来るよう、現在作業場を建設中とのこと。事業所側に任せる際には、計測係、袋詰め係・・・と1人1役で分担して、チームで作業が完了するスタイルにします。またこのようにできる作業を増やすことは事業所側にもメリットが生まれます。農福連携でもう1つ大事なことは、事業所側が利用者に給料を支払うための稼ぎです。作業に出るからにはある程度の稼ぎが必要になります。年間通して安定的に稼ぐことができるよう、笠間農園で事業所側の特性を生かした分担や環境づくりを進めています。

農作業はリハビリになる!

笠間農園に通っている障がい者の方達には良い変化が生まれています。最初の頃は農家のスタッフの前で恥ずかしがっていましたが、作業をしていく中で自信が生まれ、今は堂々と挨拶ができるようになりました。はじめは不安があった農家のスタッフも彼らの変化を見て、地域福祉として彼らを支えようという想いが生まれています。

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また「農作業した日は入眠剤がなくても寝られる」、「エアコンで室温をコントロールしないと体温調整ができなかった子ができるようになる」などの変化が見られているようです。最初に事業所から声がかかった際にも令子さんは「リハビリに来ているつもりで農作業をやってもらおう」と思っていたそうですが、その通りの効果が見られているようです。

将来は畑で作業療法!

笠間農園では、北陸農政局、金沢医科大学、金沢星稜大学と連携し、農作業が健康にどう影響を与えるかの共同研究を行なっています。昨年末には睡眠に関する測定を行い、この春に結果が発表される予定です。このようにきちんとエビデンスを残そうとしているのは、将来的に農業を通して農産物の販売だけではなく、リハビリなど別の役割を担いたいと考えているから。実際に障がい者の方の変化だけではなく、農家で働く高齢者にも注目しています。笠間農園では昨年88歳で引退した女性が2名いました。みなさん高齢でも元気に働いており、今まで令子さんが作業療法士として接してきた同年代の方々との違いに驚いたそうです。

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農業は、身体を動かすリハビリ的な側面以外に、人の役に立つという面もあります。草1本抜いて、袋詰め1つ、2つでも農家さんから「ありがとう」と感謝されると、言われた側も喜びになります。「高齢者や障がい者をはじめ、人は誰かの役に立ちたい、いつまでも活躍していたいという想いがあると思うので、地域の方々にとって笠間農園をそういう居場所にしていきたい」と令子さんは夢を語ってくれました。