農業者と学生の「新たな出会い」から生まれるもの/舘 正裕樹さん 金沢大学 研究・社会共創推進部 地域共創推進課

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2019年度から始まった、金沢大学と北陸農政局との共創事業。食や農業に関わる方の講演から始まり、同大の学生がほ場や作業場などの見学や農業体験、農業者との意見交換などを経て、農業者の課題を解決するためのアイデアを出すワークショップ「アグリソン」を実施しています。アグリソンには学生・農業者に加え、6次産業化プランナーや中小企業診断士、金融機関など、各分野のプロフェッショナルが一堂に会し、課題解決に向けて意見を出し合います。本共創事業がスタートした経緯や3年間の動き、今後の展望などについて伺いました。

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農学部がないからこそ、農業への関心のタネを

北陸農政局が金沢大学に声かけしたのは2018年。なかなか若者の就農者が増えない状況があるなか、「若い人に農業に関心を持って欲しい」という思いから本共創事業が始まりました。金沢大学には農学部がないので、学生がアイデアを出せるのかと当初は懸念の声があったそうです。それでも「異分野融合」に力を入れている金沢大学だからこそ、多様なアイデアが出てくる可能性があると、2019年度から共創事業がスタートしました。

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学生にとっては単位にならない、課外活動の扱いになるにも関わらず、初年度は講演からアグリソンまで延べ200名の学生の参加がありました。「まちづくり」を学ぶ地域創造学類で「地域に根差している農業」に関心を持つ学生や、将来の副業の選択肢の1つとして農業を視野に入れる学生、健康医療に関心のある保健学類の学生など、専門も個性も違う“若者たち”が集まりました。

農業への新たな視点。農業を自分ごとに

共創事業のプログラムでは、導入として特別講演を開催しています。初年度は石川県能登町出身で世界的なジェラート職人の柴野大造さんを、今年度は全国の農業者の経営改善に取り組む佐川友彦さんを講師に招きました。農業者ではなく、食や農業に関わる人たちの話を聞くことで、学生からは「農業と食のつながりを再認識した」「農業って身近な存在なんだ」と、予想以上に大きな反響がありました。「農業は、農学だけでなく、経営や機械、健康・医療など、さまざまな分野の知識や経験を活かしやすい業種と言われています。ぜひ学生たちには農業を自分ごととして捉え、関心を持ち、将来何かしら関わりを持ってほしい」と、共創事業を企画・運営する舘さんは話します。

異なる立場からのアイデアは、1つのきっかけになる

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昨年度は「アグリソン」でアイデアを出すだけに終わらず、その後も「ポスト・アグリソン」と称して複数のワークショップを行い、学生から出たアイデアを形にしました。昨年度、共創事業に参加した北辰農産(石川県白山市)からは、「稲作で出るもみ殻を何かに活用できないか?」という課題が挙げられていました。北辰農産では、小学生の田んぼ体験など地域に根差した活動をしていることから、学生たちは、子どもたちがもみ殻を使ったアート体験ができるイベントを「アグリソン」で発案。今年3月には、プログラムに関わった学生や農業者などの関係者全員で、着色したもみ殻を使ってアート作品の見本をつくるなど、企画を進めてきました。残念ながらコロナの影響で2021年度中のイベント開催は見送られましたが、今後開催も検討しているそうです。舘さんは「プロジェクト後も農業者さんと関係を継続できているので、イベントの準備や運営はもちろん、さまざまな形で今後も手を取り合っていければ」と言います。そのほか、石川県河北郡津幡町の休耕田となった棚田と地域の歴史(源平合戦)を掛け合わせたイベントが2019年に開催されるなど、共創事業をきっかけに生まれたタネが着々と芽吹いています。

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また、プログラムに参加した農業者からは、「学生たちの柔軟で奇抜なアイデアが刺激になった」という声が上がっています。「プログラムには、各分野のプロフェッショナルの方々も参加しています。専門も職種も違う、いろんな人々が出会い、一緒になって考え合うことは、イノベーションが生まれる一つのきっかけになると思っています」と舘さん。

何より大事なことはまず「出会える」場をつくること

参加学生にとっても、もともと関心のあった農業を掘り下げる機会となり、「農業の3K(キツい・汚い・危険)というイメージが変わった」「農業者さんは面白い人がたくさん。交流してとても楽しかった」と翌年リピート参加する学生もいます。大学側もこのプロジェクトで「出会いの大切さ」をより強く感じ、学生と地域の方が出会い、つながり、学び合う「Project: AERU(プロジェクトアエル)」を今年4月にスタートしました。

舘さんは最後に「学生たちには、物事を固定観念だけで捉えないようにしてほしい。この共創事業を通して農業者さんと実際に会い、こだわりや苦労を直接聞き、農業に対して興味・関心を高める機会になればうれしいです」と話しました。学生と農業者などの異なる人々が出会い、高め合う本共創事業の今後に期待が持たれます。