楽しさとモッタイナイを掛け合わせて地域の女性農家を元気に/寺田晴美さん(株)Stay gold てらだファーム

寺田晴美さんStaygoldてらだファーム

富山県の入善町で農家をしている寺田晴美さん。15年前に両親の高齢化で、農家を継ぐことを決意し、6年前に株式会社化。継いだ当初は稲作農家でしたが、稲作に追加して、年間50品目の少量多品目の野菜栽培や、それらを使用した加工品の製造販売も手がけています。廃棄される里芋の親芋や、B級品の小芋を使用して製造している里芋コロッケは、コロナ前年間3.3万個を売り上げるほどに成長。そのほか、オリーブの新漬けをつくりたくて周辺では誰もやっていなかったオリーブ畑を作りました。そんなさまざまなチャレンジを行う寺田さんに刺激を受け、周囲の女性がどんどん主体的に農業に関わるようになり、全国でも有数の女性農家が元気な町として入善町は有名になりました。その秘訣を寺田さんに伺いました。

自分の興味×消費者目線で始めた多品種の野菜作り

農家を継ぐ前の寺田さんは会社員をしていて、「絶対農業は継ぎたくない」と思っていたそう。でも両親が70歳近くなり、後継ぎがいないと機械の更新もままならず、このままでは長年両親がコツコツと規模を拡大してきたものが終わってしまうこと、そして預かっている地域の田んぼを手放すことで困る方がいることなどから決心をしました。

ただそうは言っても農業が好きではない。「どうしたら楽しくやれるようになるのか?」と考えた寺田さんは当時流行し始めていた「野菜ソムリエ」の資格を取得することにしました。資格を取得したことで、どんどん野菜が好きになり、テレビで見た野菜に興味を持てば作り始めるということを繰り返していたら、現在50品目に達したとのこと。寺田さんの「農家って、作りたい! と思ったら作れるからすごいな」という言葉が印象的でした。

どれも少量で作り始めるので失敗したら翌年は止めることができるのが、少量多品種のいいところ。プチヴェールやロマネスコなど珍しい野菜や、色のついたカリフラワーや、ピンク、マーブルのトマトなど色味が鮮やかで他ではあまり見かけないものを作られています。これは「自分が料理をするときに、食卓に赤や黄色などの色があるとテンションが上がる。食卓で目で楽しんでから味わえるような野菜を積極的に作るようになりました」と言う、消費者としての目線を生かした結果です。実際にこれらの野菜を欲しがるシェフの方も多く、レストランに直接卸しているそうです。

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消費者的な感覚「食べられるのにモッタイナイ」が生み出した入善町の名物品

寺田さんの畑では里芋も育てていますが、里芋の親芋はその繊維質な食感やグレーの色みから捨てられてしまいます。さらに小芋も少し形がいびつなものは、B級品として半額以下で取引されるという現状があります。それらを知った寺田さんは「食べられるのに捨てるのはモッタイナイ。親芋は大きいから本来料理しやすいのでは?」と、里芋コロッケを考え農協の組合に提案します。当初賛同は得られませんでしたが、1人の農協職員の方に農協祭での販売を提案され、実際に2日間販売したところ想定の倍の400個を完売しました。初日に購入された方の多くがリピーターとなって翌日にも買いに来てくれるのを見て、「これは売れるのでは」と、その冬は実験的に4週間販売を行い、1,000個のコロッケを完売させました。

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それ以降は本格販売を開始しました。雪の多い富山では、農作業の閑散期(12月〜2月)に1年分をまとめて製造し、農協に掛け合って導入してもらった急速冷凍機を使用して農協の冷凍庫に保管して、年間を通して販売していきます。初年度は1.5万個、そこからどんどん量が増えて、最高では年間3.3万個を販売していました。そのときは自分の家の里芋だけでは足りなくなり、近隣の農家のB級品などを市場より高値で買い取っていました。イベント販売を中心に販売を行い、1個120円するコロッケを10個、20個と購入されるファンが多く、1度のイベントで1,500個を販売するなど、入善町での知名度の高さがうかがえます。他にも脇芽だけを出荷するプチヴェールの捨てられる外葉をペーストにするなど、「モッタイナイ」から加工品が生まれています。

自分が作りたい気持ちから地域初のオリーブ畑づくり

寺田さんが作る加工品の中にはオリーブの新漬けもあります。富山でオリーブが作られるのは珍しく、いつも予約だけで完売してしまうほど人気商品。6年前オリーブの新漬けを作りたくなった寺田さんですが、この辺りでは誰も作っていない。そこで小豆島に視察に行き、「富山でオリーブなんてできる?」と言われながら、現在140本のオリーブの木を育てています。この畑を視察に来て、周りでもオリーブを植える方が増えて来たそう。

さらにこの畑には牡蠣殻が肥料として撒かれていました。これも海洋深層水が身近にある入善町ならでは。 富山湾深海のミネラル豊富な海洋深層水を供給する施設が入善町にはあり、海洋深層水の清浄という特性を利用し、浄化させた牡蠣を提供するレストランが同施設内にオープンしています。 そこで出る牡蠣殻の活用方法に悩んでいた施設の方が寺田さんに相談し、「モッタイナイから肥料にしたい!」と寺田さんが活用するようになりました。

従業員を雇ったことで、年間を通して仕事をつくる

将来両親が引退したことを想定して、人を雇うため6年前に株式会社を設立した寺田さん。実際に従業員を雇い始めると、年間を通して仕事が必要になるため、冬の間は軟白ネギなどを作り始めました。ネギは育苗で使用するハウスを利用しています。なるべく今ある資源を活用するため、育苗期間以外で育てられる野菜や、敢えてプランターを使用して皮まで食べられるイチジクを作り育苗期間のみ外に出すなど、いろいろなモッタイナイを活用する工夫をしています。

モッタイナイは人材面でも! 地域の女性が元気に

加工品の製造では、地域で一時的に家のお手伝いをしている農家のお嫁さんたちに声がけをして、里芋コロッケを製造するチームを作りました。主体的に農業に取り組む立場ではなく、何をしていいのかわからないと思っている女性たちは、実際に農業を本格的に始める前の寺田さん自身の姿と重なるものがあったそうです。意欲も時間もあるのにモッタイナイという思いから声をかけました。また1人でやるより冬の間週に数回、料理も持ち寄ってワイワイやるのも楽しいからという思いもあったそうです。

さらに、野菜づくりに興味のある農家さんの女性を集めて「おいしい野菜部」を立ち上げ、みんなで同じ野菜を育ててお互いに問題点などを話し合うようにしています。こうした活動から農業に興味を持つ女性が増えて、今では家の農業の主力になったり、今までは女性は寺田さんしか参加していなかった農協のさまざまな会合に参加する女性が増えています。周りに積極的に農業に参加している女性が増え、女性農家が元気な町として視察が来るほどになりました。女性農家が元気になる秘訣を視察でよく聞かれるという寺田さんは「そんなのどこの地域でも何か小さいきっかけがあったらそうなるんじゃないかな」と笑顔で話してくれました。

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